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【映画評書き起こし】宇多丸、『美しい星』を語る!(2017.6.10放送)

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実際の放送音声はこちらから↓

宇多丸:
ここから11時までは、劇場で公開されている最新映画を映画ウォッチ超人こと<シネマンディアス宇多丸>が毎週自腹でウキウキウォッチング。その<監視結果>を報告するという映画評論コーナーです。今週扱う映画は先週、「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)を回して決まったこの映画……『美しい星』

(BGMが流れる)

今回、後ほど言いますけども音楽のこの渡邊琢磨さん。音楽の使い方がめちゃめちゃ面白いですね。三島由紀夫の異色SF小説――まあ寓話というかね。本格SFというよりは寓話的なあれですけども――を、『桐島、部活やめるってよ』『紙の月』の吉田大八監督が映画化。平凡な家族が突如として宇宙人に覚醒する姿を、舞台を現代に置き換えた脚色で描く。父をリリー・フランキー。息子を亀梨和也。娘を橋本愛。妻を中嶋朋子。一家に近づく謎の代議士秘書を佐々木蔵之介が演じている、ということでございます。

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ということで、これを見たという地球人のみなさん、<ウォッチメン>のからの監視報告(感想)をメールなどでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、いつもよりちょっと多め。ああ、そうですか。やっぱり吉田大八監督最新作ともなればね、非常に注目度も高いですし。まあ間違いなくね、それは行くは行きますよね。絶対にね。賛否の比率はおよそ9割が褒め。これ結構ね、普通に賛否が分かれて当たり前の作りの作品なんで、この9割はさすがに意外ですが。「笑わせたいのか泣かせたいのか……。この映画自体が宇宙!」「見終わった後、『意味はわからないけど面白え!』と叫びたくなるような快作」「リリー・フランキー、すごい」などなど、とにかく圧倒された人が多かった模様。一方、「ビジュアルがチープすぎる」「駄作ではないが、乗れなかった」という意見もちらほらあった。

その中から、代表的な感想をご紹介いたしましょう。ラジオネーム「たんこぶ」さん。「今週のお題映画『美しい星』を見てまいりました。面白い。面白すぎます。吉田大八監督万歳! 主役家族たちのキャスティング、演技が素晴らしかったです。朴訥なお天気おじさんからの濃厚な中年セックスで一気にひきつけるリリー・フランキーさんはもう、そういう人にしか見えなかったですし、亀梨和也さん、中嶋朋子さん、そして何より橋本愛さん。全員大変人間味があって面白すぎました」。だから、宇宙人に覚醒すればするほど人間味が出てくるというこの面白味があるんですけどね。

「……監督お得意のリアルすぎるモブたちも素晴らしく、特に大学の広告研究会の彼は本当に最高です」。後ほどこれも私、言及いたします。ありがとうございます。「……中盤のサイケデリックな曲に乗せての激しいカットバックドラッグシーンも超最高ですし、原作をアレンジした佐々木蔵之介との口論もめちゃくちゃスリリングでしたし、見ている間、『ヤバい! 面白い! ヤバい! 面白い!』とつぶやきながら、気がつけば涙を流していました。素晴らしい作品でした。もっともっと大勢の人に見てほしい作品です」というご意見でございました。

一方、「ベンジャミン」さん。「公開初日だったか2日目に日本橋TOHOで見てきました。ほとんど満席でした。『桐島』が生涯ベスト作品だったのでかなり期待して行ったのですが、結論としてはほとんど意味わからん映画でした。あくまでも私の印象ですが上映後、客席全体が『えっ? で?』ってなっていたような気がします」。まあ、それも無理からぬ一作なのは……もちろん作り手もそういう反応は百も承知、上等という感じで作っている作品ではないかと思いますがね。はい。ということでみなさん、メールありがとうございます。『美しい星』、私もTOHOシネマズ新宿で2回、見てまいりました。


私が見た回も女性客中心にそこそこの入りといった感じ。まあ、亀梨くん主演というのもあるんでしょうけどね。ただまあ、まずTOHOシネマズで結構がっつりと公開していて。リリー・フランキーさんがなんかのインタビューで「これ、普通だったらテアトル単館だよね」っていうさ(笑)。この内容だったらっていう。かなりの蛮勇だと思いますけどね。今回、まずざっくり僕なりの結論から先に言ってしまいますと、この『美しい星』。三島由紀夫の原作小説……まあ、この原作小説とどういう違いが、みたいなところに細かく踏み込んでいる時間が今日は絶対にないので、そこは端折りますが。まあ、ぜひ読んでください。元の小説もすごい面白いです。その原作小説を現代的、映画的に再解釈したという作品ではあるんだけど……結果としてはやっぱりと言うべきか、「学生時代に原作を読んで以来、ずっと映画化を考えていた」なんてことをおっしゃっているだけあって、いまやもう日本映画界トップの作り手と言っていいでしょう、吉田大八監督の映画作品の、ある意味全てに共通するテーマ、語り口の、今回は集大成的な一作という風になっていてですね。

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たとえば――前の一連の『桐島』とか『紙の月』の評の中で言ったことをもう1回、整理しますけども――たとえば、「客観的にはどれだけ非合理に見えても、人はある種の“夢”を見ながらじゃないと生きられない。そうじゃないとこの世は救いがなさすぎる」という根本テーマの部分であるとか。あるいは、「それぞれの登場人物が、実は全く異なる世界の見方をしていて、そのそれぞれの微妙な、イヤ〜な感じを醸すズレが、次第に不穏な緊張感を高めていく」という独特の語り口であったりですね。そしてその、だんだん高まっていく不穏な緊張が極に達したところで、さっき言った「夢」……各々がこれがないと生きていけないという夢。これ、言い換えると、その人が生きるために必要な「物語」、という風に言い換えてもいいと思うんですけど。

まあとにかくその、「夢なり物語なりっていう幻想が、現実を、世俗的社会を、一瞬食い破る」。虚と実の劇的な反転が一気に起こるポイントがどこかで訪れるという、まあそういう映画として非常にスリリングな作りであるとかですね。とにかくそういう風な、吉田大八監督の映画に共通するファクターの、まさしく今回の『美しい星』は、本当に僕がいま言った要素が全部きっちり全面展開されている、集大成的な一作であることは間違いないわけですね。でも、そうであると同時に……やっぱり先ほどね、「『桐島』が生涯ベストだったので……」っていう方が非常に戸惑われておりましたが、それもまあごもっともと言うかですね、吉田大八さんのフィルモグラフィーの中でも突出して変な映画。異色作なのもまあ、またたしかだとは思いますね。いちばんテイストとして近いのは、『クヒオ大佐』。テーマ的にもね、2009年の『クヒオ大佐』かもしれませんが、あれよりはるかに、もうぶっちぎりではっちゃけた作品でございます。

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たぶん、原作小説自体がそもそもそういうテンションの作品だというのも大きいんだろうけども、とにかくですね、僕は見終わった後に、「キレッキレだな! 吉田さん、キレッキレだな!」と(笑)。「キレッキレ」という表現が相応しい、大怪作でもあって。はっきり言って作り手側もそれは完全に覚悟の上での……要は歪さとか見る人を混乱させかねないところを多々残したような、そういう作りという……これはもう、作り手側も完全に覚悟の上での作りなんだと思いますが。なので、結構な割合の観客は、ただただ「なんだコレ」「トンデモ映画じゃん!」っていう風になっても、まあ全く不思議ではない。先ほどのメールにあった通り、まあそういう一作というのもたしかだろうと。気に入っている人もそれはうなずけると思うんですよね。

じゃあ、かく言う僕は?っていうと……詳しくは後ほどいいますけど、特に中盤のあるシーンでもうね、「なにこの変な映画! 最高です!」(笑)。すんごい変な映画だね!っていうのが、うれしくなっちゃって、もう。というような感じでございます。まあ、言ってみればこれね、今回の映画版『美しい星』、2010年代日本版・吉田大八版『未知との遭遇』なわけで。それは、まあテーマ的にもそうですし、UFOがどうこうっていうのももちろんそうですけど、映画としてのある種の歪さ、バランスの変さも含めてなんですけど。まあ、そもそも僕が嫌いなわけがない感じの映画作品ということじゃないかなという風に思います。実際に、いま『未知との遭遇』って言いましたけど、スピルバーグの1977年『未知との遭遇』。実際ですね、特に冒頭から序盤、嫌でも『未知との遭遇』を連想させる描写を、ちょいちょい入れてくるわけです。

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まず、最初のショットからして……最初、みなさん。この映画の最初の映るもの、なんだか覚えてます? レストランのシャンデリアが最初に映る。で、そのシャンデリアを、リリー・フランキーさん演じる大杉家のお父さん、重一郎が、どうやら家族での久々の会食の最中らしいのに、まるで心ここにあらずといった様子で、そのシャンデリアをボーッと見上げている、という。最初のショット、この2つなんですね。で、こっちもね、後からUFOだ宇宙人だっていう風になっていく話なんでしょ、っていうのは知っていて見ているんで、そうするとやっぱり、シャンデリアを家族そっちのけで……つまり地上の、世俗の生活そっちのけで見上げている、心ここにあらずな主人公という絵面から、やっぱりそれは『未知との遭遇』を連想しちゃう。特に『未知との遭遇』のクライマックス。マザーシップ、ドーン!っていう感じの宇宙船が下りてきますけど、あれはまさに「シャンデリア型」っていう風に、当時表現されておりました。

なので、当然連想してしまうわけですね。で、これ、おそらく作り手も意識的なんですよ、最初に、シャンデリアをボーッと見上げている主人公っていうのは……その証拠にと言うべきか、このシャンデリアをボーッと見ている主人公が映る冒頭部は、この映画が終わるところと、完全に対になっているわけです。映画が終わるところ。リリーさんはラストでは、オープニングと逆に、見下ろしていますよね。しかもその、見下ろしているのは、「いまいるこの場所」ではない、「あの場所」に思いをひかれるように見下ろしているわけですよ。つまり、ド頭とラストが、完全に対になる構造になっている。そう考えるとやっぱり、ファーストショット、主人公が見上げているシャンデリアが、後に出てくる何を象徴しているかは、もう明らかなわけですね。

さらにその後ね、車を運転中にUFOらしきものとまさに遭遇するところ。たとえば、「後続車のヘッドライトかな?」って最初思ったら、「あれ? 変な動きをして……」っていうその見せ方とか(非常に『未知との遭遇』っぽい)。で、グーッと宇宙船が前に来て、「ああーっ!」ってなったところでバンッ!ってホワイトアウトする。画面がバッと真っ白になって、時間が経過して……っていうその編集感覚。まさに『未知との遭遇』のド頭のところ。(最初真っ暗な画面に音楽だけがうっすらと流れだし)グワーーッ、ダンッ!って、いきなり画面が白くなったと思ったら、オープニングになるわけですけど、そういう編集感はすごい『未知との遭遇』のド頭そのものですし。その後の、本来あるはずのない場所に乗り物がポンとある……今回だと、田んぼの真ん中にいきなり車がボンってあるという、あの絵面も、もう完全に『未知との遭遇』の、砂漠の中に船がドーンとあるとかっていうのを連想せざるを得ないという作りだし。

まあ、そういう表面的な『未知との遭遇』っぽさ以外でも、お父さんの重一郎を含め、この大杉家という主人公の家族たち4人それぞれが、言ってみれば、現世での、いまの自分の人生に、ある種の限界、どん詰まり感とか、生きづらさみたいなものを抱えていて。だからこそ、「宇宙人」であるとか、あるいはお母さんであれば「美しい水」であるとか、あるいは、まあ長男だったら宇宙人と同時に「秘密の政治活動」であるとかっていう、要は「超越的な何か」を通じて、現世の人生から逃避しようとしている、そこから跳躍しようとしているというあたり。テーマ的にも極めて『未知との遭遇』と近しいものがあるな、という風に思います。なんだけど……まあその、家族それぞれの現世的な生きづらさ、居心地の悪さっていうのを、キャラクター紹介も兼ねて、前半部、言語化される一歩手前の微妙なニュアンスで、意地悪なユーモアを含め、しかもテンポ良く描き出していく……というタッチは、まさにやっぱり吉田大八監督ならでは。十八番といったところじゃないでしょうかね。

たとえば冒頭ね、アバンタイトル。まだタイトルが出る前の食事会シーン。ちなみにタイトルが出る瞬間の、最高に間の悪い誕生日お祝いみたいなのって僕、『沈黙の戦艦』の、バースデーケーキからの……っていうあそこを思い出したんですけど(笑)。はい。まあそれはいいや。冒頭、アバンタイトルの食事会シーンでね、お父さんが席を立って電話をしに行くわけです。アシスタントであり、愛人でありという女性と電話をしに席を立った。で、電話をしていると、その電話をしている最中なのに……お父さんがどうも有名人らしいというのは、後ろの席の感じでなんとなくわかっているんだけど、電話中なのに、「あの、大杉さんですか? 写真、いいですか?」って(声をかけてくる女性たちが出てくる)……電話してるんですよ? で、悪気が全くないように写真を撮るという。その、悪気がまるでなさそうな、話しかけて写真を撮る女性たち。

要は、こういうことですよね。「テレビでおなじみのお天気おじさん」っていうこの設定が絶妙で、有名ではあるけど、微妙に軽く見られがちでもあるのかな(笑)、という彼の存在感。それが非常に、端的に伝わってくる描写ですよね。しかもこの、「まるで当然のような顔でスマホで写真を撮る」っていうこの行為の、そこはかとない無礼感。そこはかとない、一種の暴力性みたいな感じは、その後に出てくる長男の一雄……これ、亀梨和也くんがやっぱり、暗い目をした、ちょっと怒りを溜め込んだ暗い目のハンサムで、非常にハマっているんですが。

その、亀梨くん演じる長男のエピソードとも響き合うという。こうやってパシパシパシッて写真を撮って、「『先輩発見』って写真、送っていいですか?」「(バカにしてんのか!)」って。でももうグウの音も出ずに、去っていくのを見送るしかない。ちなみにここでの、たまたま会った後輩のね、「先輩、プロを目指しているのかな?ってみんなで話していたんすよね」っていう、なんかやはり微妙な半笑い視線みたいなのって、まさに『桐島、部活やめるってよ』のあの「先輩」のその後、みたいなのもちょっと重ね合わせてしまうようなあたりですよね。そこもやっぱり、集大成っぽいあたりだし。

さらに、中嶋朋子演じるお母さん、伊余子さんがいわゆる「美しい水」……まあ、怪しいビジネスですよね。水ビジネスにハマっていくと。これ、『恋人たち』然り、『サウダーヂ』然りね、「水ビジネスが出てくる映画にハズレなし」とは放送作家の古川耕さんもおっしゃっておりましたが(笑)。まあ、こんなのが楽しいのは言うまでもなく。まあはっきり言って、主婦間の……なんて言うの? なんとなーく雰囲気に同調していく描写なんて、これはもう、吉田監督が得意中の得意としているところなんで。こんなのはもうお手の物で、楽しいわけですけど。

今回、やっぱり『美しい星』、特筆すべきは、見た人がいちばん印象に残るのは、娘、暁子のパート。要は、「美しいことが得になっていないタイプ」「美しいせいで上っ面しか見られていない、と自分を捉えている人」というね。これ、まさに吉田大八監督の前作『紙の月』で、宮沢りえ演じた主人公に関して、私、説明で言いました。まさにそれと完全に重なるキャラクター像なんだけど、そういう女性を今回、橋本愛がもう、キャリア史上最高のハマりっぷりで、まさに体現! 間違いなく彼女の、いまのところのベストアクトという感じですね。もう要するに、あまりにきれいすぎて、他者との間に溝ができてしまう。で、しかも彼女が、後に言いますけども「宇宙人」に覚醒した後は、その美しさと、取る奇矯な行動とのギャップが、また妙なユーモアを醸し出したりして。ミスコンの他の子たちがピョーンってかわいく跳ねている横で、例の(後述するUFO呼び出しの)ポーズをハーッてやるとか(笑)、もう笑っちゃうっていうね。それも含めて、もう完璧ですね。素晴らしいと思います、橋本愛。今回ね。


で、先ほどのメールにもあった通りですね、たとえば彼女にまとわりつくチャラい男子学生。これ、演じているのは藤原季節さんという方。『ケンとカズ』とか出てらっしゃいましたし、最近では『カルテット』で、Mummy-Dの子分役みたいなこともやってらっしゃいました。最近あちこちで活躍されている役者さんですけども。彼の、たとえば「広告研究会の栗田です」っていう、名刺を差し出す時の指先ひとつまで気をつかった、あのイヤ〜な感じの演技っていう……これね、やっぱり吉田大八作品は、さっき言ったような、この世界に漂う微妙なヤダみみたいなのを表現する際に、たとえば『桐島』での松岡茉優さん然り、『紙の月』における大島優子然り、こういうスパイス的な、ちょっとピリッと、「ん? なんか嫌だな」っていう感じをさせる役回りが、吉田大八作品では非常に、実はものすごく大事なキモだったりするんです。(その意味で)これ、やっぱり藤原季節さん、非常に見事だったと思う。

彼によって、「ああ、『こんな世界にはいたくない』っていう気持ちはわかるぞ!」っていう感じがすごく強まるし。あとその後ね、橋本愛さん演じる非常に心を閉ざした美少女が、うっかりハマってしまう、自称・金星人……(彼が劇中で)歌う『金星』という曲は、平沢進さんの非常に有名な曲ということで。監督がすごい好きな曲らしいですけども……まあ、その『金星』という曲を歌っている、自称・金星人のシンガーソングライター。これがまた絶妙な、なんともしれん怪しさ、ヤダみ……なんともしれん、なんていうか、イヤ〜な感じで甘えてくる感じっていうのか、もうセリフ一言二言で、「うーん、なんかこいつは、うーん……」(笑)という風なものを見事に発散するのが……「この役者さんは?」と思って見てみたら、演じていたのはなんと若葉竜也さん。あの、葛城家・次男坊でした! みなさん、『葛城事件』をぜひご覧ください。昨年の大傑作。

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つまり、「こいつやっぱりヤバいんじゃないか?」っていう感じが漂うわけですけどね(笑)。ということで、そのヤバい予感。「こいつ、ヤバいんじゃないの?」っていうのを引きずったまま、先ほど言ったように僕が、「なにこの変な映画……最高!」っていう風になってしまった、問題の覚醒シーンがやってくるわけです。その葛城家の次男坊……じゃなくて、金沢のシンガーソングライター、自称・金星人の竹宮という男に連れられて、橋本愛演じる暁子さんは、海辺に来たわけですよ。「UFO、来るよ」っつって。で、竹宮がやっている……まあ『未知との遭遇』のね、「ファファファファファファ~♪」に合わせて音階手話みたいなのをやるのがあるんですけど、それよろしく、UFO呼び出しの儀式的ポーズを取るわけです。これがまた絶妙に……まあわりときっちり呪術的なんだけど、ちょっとだけ間抜けにも見えるという(笑)非常に見事なバランスの振り付けで。これを繰り返しやっている。で、それを(真似て)橋本愛さんもこうやってやりだす。こう、繰り返しやっている。

するとですね、ここで……もともとその前の、亀梨くん演じる一雄がですね、自転車でメッセンジャーをやっていて車を追いかけるくだり。「おおっ!」っつって車を猛然と追いかけだすくだりで、「えっ、なに? いきなりそのテンション?」っていう感じの、パーカッシブでトライバルな……いきなり、なんかとんでもないテンションの音楽が流れ出して(笑)。それですごいなんか、「ああ、変わった感じの音楽の使い方をするな」っていうのはね、その前のシーンでもなんとなくあるんだけど……まあその問題の海辺でUFOを呼び出すシーン。で、そのUFOを呼び出すシーンと交互に、エレベーター内で、そのお兄ちゃんの一雄が政治家の手伝いをするということになっているんだけど、その一雄が見る、一種タイムリープ的な惨劇のビジョン。これがまあ、両者が交互に映し出されて、次第にその編集テンポが上がっていって、起こる事態もなんか、異常なことになっていく。

と、同時にですね、音楽が……(BGMがかかる)。ちょっとこう、なんて言うんですかね? クラブミュージック的な、もう重低音ベースとキックがものすごい効いたビートが、ドン、ドン、ドン、ドン!って流れ出して。要は明らかに、これまでの物語のテンションとは全然違う……はっきり言いますけど、とてもシラフとは思えない(笑)ハイなテンションへと、だんだん高まっていって。で、こうやって(橋本愛が)UFOを呼ぶポーズをしている、その後ろに竹宮が、なんか気持ち悪い感じでピターッとくっついて(笑)同じポーズをする。で、まあいろいろあってついにその暁子が、UFOを見る! 覚醒する!っていう。で、もうここに至ると、サブリミナル級に編集がバババババーッ!って(超高速に)なっていってですね……という風に、すいません、言葉にしてもあんまり意味がない(笑)。こればっかりは劇場で、大画面、大音量の中で、呆然と、口あんぐりとしていただく他ない。とにかく正気の沙汰とはとても思えない――これ、褒めていますけども――正気の沙汰とはとても思えないシークエンス。

編集といい、音楽の使い方といい。これ、今回、音楽の渡邊琢磨さんと吉田監督のコラボが、めちゃめちゃこう、化学反応ですね。普通はこういう音楽の付け方、しないだろうっていうような付け方をしていて、これがすごくいい効果を生み出しています。特にいまの場面はそう。もうこの、UFO呼び出しシーンの正気じゃなさっぷりだけで、今回の映画版・吉田大八版『美しい星』、後世でのカルト化は約束されたと言っても過言じゃないと思いますね。もうここだけでも俺、何回も見返したいわっていうぐらい、キてしまいました。で、ですね、このシーンなんかはまさにそうですけど、登場人物のその主観的な体験とか物語が、本当に客観的な妥当性があるものなのかどうかっていうのはまあ、劇中では曖昧にされているわけです。

で、それはもちろん、あえて作り手も意図的にそういう作り方にしているわけですね。曖昧にして、見ている方に「どっちなのかな?」って考えさせるような作りになっている。だけど、まあ原作小説と比較すると、僕はですね、やっぱり、たとえばお母さんが家族の中で唯一地球人目線を保っているとかですね、あとまあ、佐々木蔵之介さんの(役柄が取り出す、ひと押しで人類滅亡させるらしい)ボタンが、後で、あるオチがつくんですけども、ああいうオチがつくことで、やっぱり吉田大八監督の、さっき言った一連のフィルモグラフィーと共通するテーマに引き寄せている……つまり、やっぱり「夢でも見ていないと生きてられないじゃん」「でも、その夢が現実を食い破ることもあるかもよ?」ぐらいのバランスに、だいぶ引き寄せられているという風には思うわけですけどね。ということは、全体的にはでもやっぱり、「これはなに? 客観的な事実なの? それともこの人が夢とかで……この人の主観で見ていることなの?」っていうのが、全体が寓話的な語り口でもあるので、そこは曖昧にされたまま行くと。

で、ですね、特に佐々木蔵之介演じる黒木という、原作に出てくる3人のキャラを1人にした、というだけではなくて、その3人のキャラはかなり実は、宇宙人を名乗りながら、非常に世俗性モロ出しのキャラクターなんだけど、それ(キャラクターの世俗性)を完全に廃したことで、作劇としては非常にわかりやすいバランスになりました。要するにものすごい、本当に宇宙人っぽいバランスで物を言う人と、「宇宙人に覚醒した」って言うけど、より人間的になっていく大杉家のみなさん、っていうのの対比になって、非常に作劇的にはわかりやすくなった。また、やっぱり佐々木蔵之介さんの、改めて、異常な演技の巧さですね。もう登場した瞬間から……別に特別なことをやっているわけじゃないんですよ。特殊メイクをしているわけじゃないのに、出てきた瞬間に、「ああ、この世の人間じゃない」っていうあの体現力。食堂でご飯を食べていてさえ普通に見えない、ってやっぱりすごいですよね。すごい演技力だったと思います。

なんですけど、まあその黒木というキャラクターと重一郎。そして今回の映画版だと長男の一雄が、テレビ局の中で議論をするという場面。これ、原作でもこのディスカッションシーンが非常に大きな見せ場となっている。『カラマーゾフの兄弟』風と言われるような……なんだけど、今回の映画版に関しては、この議論シーンが特に、この作品の中のリアリティーラインがどこなのかが、いちばん混乱するところなんですね。議論している間に、周りの人間が消失して。で、絶対に黒木は人前ではこういうことは言わないだろう、みたいなことを言い出したりして。なので、非常に混乱はする場面。あえてとはいえ、非常に混乱する場面。

そしてその議論の内容もですね、これは「otoCoto」というWEBのところのインタビューで、吉田大八監督が、これ、インタビュアーの長野辰次さんという方が非常にいろんないいことを引き出しているんですけど、「『ウルトラセブン』のメトロン星人とモロボシ・ダンがちゃぶ台を挟んでする対話シーン、あれを思い出しました」というようなことを(インタビュアーの長野さんが)言ったら、吉田さんが「まさにそういうものが原体験です」っておっしゃっているんだけど。ただその『ウルトラセブン』のメトロン星人の会話、「地球人は救う価値が有るのか?」っていうのを思い起こさせる程度には、やっぱり議論そのものの内容も、まあ目新しくはないので。あと、たとえば原作小説は「核戦争の恐怖」なんだけど、それを「温暖化」っていう話に今回、話の設定を置き換えたせいで、(前述した、人類をひと押しで滅亡させるらしい)「ボタン」に集約されるような、「一気に全てがゼロになる」みたいな感覚が、ちょっとあまり納得しづらいのもあって……諸々込みで、このクライマックスにあたる議論シーンは、今回の映画版では、さすがにちょっと飲み込みづらいよ!という風には思わざるを得なかったかなと思います。

ただまあ、そこから先、またいろいろといい場面が続いてね。たとえばクライマックスの逃避行があってですね、宇宙船が待っている場所。おそらくまあ、3.11以降の被爆地帯で、要するに電気がついていないわけです。こうやって、すごく都会を抜けて……その都会、歌舞伎町を抜けていく景色もね、あれは要はあれですよね。「地球か、なにもかもみな懐かしい……」(という『宇宙戦艦ヤマト』の沖田艦長の名ゼリフに近い心情)ですよね(笑)。こうやって(都会の景色を)通りすぎていってですね。で、電気がついていないその空間に行ったところで、ハッとさせる「あるもの」が……思いもよらない、あるものがフッと出てきて。まあ映画内の、そこはリアリティーラインがフッとズレるところが、映画ならではのスリリングさで、非常に楽しいですし。

ラストの解釈。なんか「ラストが難しい」って言っている人がいますけど、全然難しいことはないと思う。2つしかないと思う、それは。本当に行ったか、本当にアッチに逝ったか(笑)。ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアという人の『ビームしておくれ、ふるさとへ』という短編がございます(『故郷から10000光年』収録)。それのたとえばエンディングであるとか、『未知との遭遇』のあれだって、あるいは『未知との遭遇』の影響を受けた『コクーン』でもいいですけど。要は、「宇宙船に乗ってあっちに行きました」は、はっきり言って「昇天」っていうイメージと限りなく近くなるということで。要するに、宇宙船に乗ってあっちの世界に行くのも、いわゆる昇天も同じこと。さらに今回の『美しい星』に関して言えば、あの高畑勲の大傑作『かぐや姫の物語』。あれと同じようなニュアンスのラストだと思えば、まあまず、わかりやすいんじゃないでしょうか。

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(最後に出てくる)アナウンスの冷たい感じね。「忘れ物ですか?」っていう、あれはやっぱり(『かぐや姫の物語』に出てくる)月の使者のね、取り付く島もない感じとかにも通じるんじゃないでしょうかね。ということで、いろいろと語りたいことがある。ああ、もう時間が全然ないですけどね。ああっ! もうひとつ、苦言はね、リリーさんの、火星人のパッ!っていうポーズが、ああいうちょっとおどけた感じじゃなくて、やっぱり橋本愛がするポーズぐらいに、なんかもうちょっと、それ自体は異空間的なものに見えるようなビシッ感があった方が……そこはおどけっぽさはゼロにした方がよかったんじゃないかな、とか思うところはなくもないですけど。まあとにかく、よくこんなカルト映画を……この規模で作って、東宝でかかっているという、この事態が奇跡だと思います。とにかく、中盤のぶっ飛びシーンを味わうだけでも本当に価値がある作品だと思います。僕は大好きです。ぜひぜひ劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は人気アメコミ映画シリーズの最終作『ローガン』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

<以下、ガチャ回しパート>

『美しい星』のね、看護師さんの受けの芝居が最高だとかね、リリーさんが着替え中に何度もカーテンを開けられるところが最高だとか、いろいろあるんですが……はい! 時間です!

【追記(次週2017年6月17日放送)】
(コーナーの前口上にて)……先週、吉田大八監督の最新作『美しい星』の評論が終わった翌日に、吉田大八監督演出の舞台『クヒオ大佐の妻』を見てきて、まさに自分の評、我が意を得たりだったなという思いを新たにしました。また、吉田大八監督ご本人に冒頭のシャンデリアであるとか、リリーさんのあのポーズについていろいろとお話をうかがったりして。

◆過去の宇多丸映画評書き起こしはこちらから!


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