宇多丸:
ここから11時までは、劇場で公開されている最新映画を映画ウォッチ超人こと<シネマンディアス宇多丸>が毎週自腹でウキウキウォッチング。その<監視結果>を報告するという映画評論コーナーです。今週扱う映画は先週、「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)を回して決まったこの映画……『ハードコア』。
(BGM:Queen『Don’t Stop Me Now』が流れる)
これね、クライマックスで、このクイーンの「Don’t Stop Me Now」が流れてね。文字通りアドレナリン全開!なアクションシーンになる、という場面でございます。ということで、記憶を失くしてサイボーグとなった主人公が次々と襲いかかる追手と戦い、妻を救おうとする様子を主人公の一人称視点のみで描いた新感覚アクション。出演はシャールト・コプリー、ヘイリー・ベネット、ティム・ロスらということでございます。監督は映画監督としては新人のイリヤ・ナイシュラーさんでございます。
ということで、この作品をもう見たよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>のからの監視報告(感想)をメールなどでいただいております。メールの量は、普通。ということですが、決して公開館数とかそんなに多くないことを考えると、これは多めの部類ではないでしょうかね。
リスナーの感想は賛否両論。まあ、非常にこれ、実験的な試みの作品なんでね。これも当然かと思いますが。「楽しい! 新しい! ストーリー的な粗も気にならず、一気に見終えた」「人生オールタイムベスト!」と興奮気味の人がいる一方、「ゲームで見たような場面ばかり」……もちろんね、特にFPSゲームの影響が非常に大きい作品です。「ゲームで見たような場面ばかり。先が読めるストーリーもよくない」と冷静な人もいた。また、賛否にかかわらず「一人称の画面で酔った」という人が続出ということでございます。
ということで、代表的なところをご紹介いたしましょう。ラジオネーム「ポテ巻」さん。「上空から地上へ落下する際には手を挙げて絶叫。降りそそぐ火炎放射には皮膚が焼かれる幻視痛。これが96分ノンストップで繰り広げられるのでアドレナリンがカウントストップ。鑑賞後は愉悦と興奮が収まらずに、血涙が頬を伝いました。本作の特筆すべき点は完全主観映像だけではありません。ニール・ブロムカンプ作品でおなじみシャールト・コプリーが演じるジミーズ……」複数形になっていますね(笑)。「ジミーズの大立ち回りの活躍。彼のカメレオン芝居には役者魂を強く感じました。まさしく彼の物語だったと思わせる構成は見事。『記憶はこれから築いていけばよい』とのセリフは実人生にも通じる格言。劇中とリアルのタイミングも相まって目頭が熱くなりました。万人にはおすすめできない傑作!」っていうね。まあ、好き嫌いが分れるのは当然っていうことでございます。
一方、ダメだったという方。「危ないメカ」さん。「どうしても昨今のFPS(First Person shooter)ゲームと比べてしまい、お話の中身そのものは『何かのゲームでやったな』と思われる内容でイマイチでした。しかし、それ以外の点でいくつか気づくことがありました。まずは劇場作品でこれだけ激しいFPS映像を見せられると、とてつもなくFPS酔い(画面酔い)に襲われるということ。言わずもがなかもしれませんが、劇場という環境はFPS酔いにさらに拍車をかけていると思わされ、映画的にもマイナスに働いているかもしれないと感じました。もうひとつは、カット割りが非常に難しいということ。ゲーム作品ではあまり意識していませんでしたが、FPS視点はそもそも1カットが前提で、さらには一人称視点だけで状況や設定の説明をすることがとても難しいということに気づきました」ということで。まあ、作品の構造から、何かいろんなことに気づかされるっていうね、そういうのはあるかもしれませんけどね。
ということで『ハードコア』、私もバルト9で2回、見てまいりました。全編POV(Point of View)。主観ショットでできている映画。しかも、POV映画って言っても……ちょっと前に流行ったような、『クローバーフィールド』とかまあなんでもいいですけど、「誰かが撮影した映像」っていうテイのやつじゃなくて……本当に、主人公の目で見ている光景「だけ」で構成された長編劇映画、ということでね。もっと言えば、まあ先ほどからメールにもある通り、最近のアクション映画にもちょこちょこ要素が入ってきてますけども、いわゆるFPSゲーム……『コール オブ デューティ』であるとか『バトルフィールド』であるとかの、ファーストパーソン・シューティングゲーム。銃を持った手が手前に出ていて、それで敵をバンバンバンバンやって、前に進んでいったりするという、そういうゲームですね。
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それこそ、先週の『キングコング: 髑髏島の巨神』でもね、ちょいちょいクライマックスで、モロにFPSゲームな画面が出てきていましたけどね。ということで、それだけで長編劇映画として作ってしまおうということで、かなり冒険的な試み、実験的な作品なのは間違いないし。まあ、これは後ほど言いますが、実は結構前から先例はあるんですよね。同じ試み、あるはあるんですけど……結局その手法、広く定着しなかったなりの理由っていうのはあるわけです。要するに、長編映画的なストーリーテリングには、基本的にはやっぱり案の定向かないからこそ、あんまりみんな使わないっていうことなんだけども。
なので、原題『Hardcore Henry』というこの作品もですね、おそらくは、「試みとしては意欲的」という意味では評価してあげたい、というような……「面白い」のはたしかだけど、まあそこ止まりというか、ほぼほぼ出オチな感じなんだろうな、アイデア一発っていう感じなんだろうな……と、見る前は僕は正直、ちょっとタカをくくっていたところがありました。「思いつきを映画にしちゃったのね、でも、普通は持たないし、やっぱり持ってないよね」っていう感じだと思っていました。ただ、これは私の結論から言うと……実際に見てみると、これは完全に私はナーメテーター物件でしたね。
全編POV、主観ショットで、長編の、しかもアクション映画を作るためにはどうすればいいのか? あるいは、どういうことはするべきでないのか? たとえば、どういう物語、設定だったらそれが可能になるのか? とかですね、そういうところから始まって、どういう撮り方、見せ方をするべきなのか? とか。そのために、じゃあどういう技術が必要なのか? 機材が必要なのか? なんなら、新たに機材とかを開発する必要があるのか? というようなところも含めて、とにかく、世界初の全編POVのFPSゲーム風アクションバイオレンス映画っていうのを作るぞ!っていうね、その一点に向けて、かなり考え抜かれ、工夫を重ねたことがわかる一本という点で。これ決してね、やっぱり出オチじゃなかったです! もう、数々の工夫が、最後の最後に至るまで、凝らされている作品でございました。
まずこの脚本・監督のイリヤ・ナイシュラーさんという方。これ、ロシアの方ですけども。もともとはまあ、バイティング・エルボーズというパンクバンドのメンバーで、いまもそうなんですけど。今回の『ハードコア』という作品でも、エンドロールでね、「For The Kill」っていう曲が流れますけど。まあ、自分で自分のバンドのミュージックビデオも撮ったりしていた人ですね。最近は、ザ・ウィーケンドっていうR&B歌手のビデオ(「False Alarm」)なんかも撮っていたりしますけどね。映像作家としても評価されて。
で、当然のようにと言うべきか、大のビデオゲーム好きということもあるらしく、もともとPOV、主観ショットのアクション映像っていうものに対する興味が、このイリヤ・ナイシュラーさん、非常に強かったようで。まずそのバイティング・エルボーズ、2011年の「The Stampede」っていう曲があって。その曲のミュージックビデオで、瞬間移動装置っていうSF的なギミックを使ったPOVアクション物を、まず撮っているんですね。で、その方向性をさらに発展・進化させて、すさまじい密度のPOVバイオレンス・アクション・コメディーに仕立て上げた2013年の「Bad Motherfucker」っていう曲のミュージックビデオ。それがYouTubeなどで世界的な注目を浴び……という。これ、本当に、さっき言った「The Stampede」と「Bad Motherfucker」、バイティング・エルボーズの曲のミュージックビデオ、普通にYouTubeでも見れるのでぜひ見ていただきたいんですけども。いま見ても、本当にこれは、明らかに「すごい」作品です。
特にやっぱりこの「Bad Motherfucker」の方は、やっていることは今回の「Hardcore Henry」の原型なんです。明らかにこれを発展させたものだなと思うんだけど、こっちのミュージックビデオの方は、モロに映像の質感が、よりビデオビデオしているっていうか、わかります? 身も蓋もないビデオの映像の感じなので、「目の前で信じられないようなことが、本当に次々と起こる」っていう感じは、今回の映画の『ハードコア』よりも、むしろこのミュージックビデオの方が強いかもしれない、ぐらいに思いますね。まあ、すごい作品です。
で、それを見た、『ナイト・ウォッチ』とか『デイ・ウォッチ』とか、ハリウッドで撮った『ウォンテッド』とかでおなじみティムール・ベクマンベトフさん、ロシアの映画監督が、「君、これを映画にしなよ」っていう風に声をかけて。まあ3年、いろいろあって。クラウドファンディングで資金を集めたり、いろいろしてようやくできたのが、この『Hardcore Henry』という作品だということですね。で、とにかくこの『ハードコア』、脚本・監督のイリヤ・ナイシュラーさん。よほどこのPOVアクション映像というアイデアに取り憑かれたんでしょうね。この方、過去の作品における同種の試みっていうのの歴史も、すごくよく勉強しているんですね。で、この本作『ハードコア』を作っている。
たとえば、これインタビューなどでもイリヤさん、繰り返しタイトルを挙げてらっしゃいますし、あとジャンクハンター吉田さんの監督インタビュー記事ではじめて僕、気づいたんですけど……初見の時には全然それ、気づかなかったですけど……劇中でも、ヘンリーが窓からアパートの中に侵入して、そこにジャンキーたちが部屋にたまっていて。「お前もマリファナ、吸う?」みたいなこういうことを言う場面で、その部屋にいっぱいポスターが貼ってあるんですけど、そのいっぱい貼られたポスター、それこそゲームで今回、いちばん影響を受けたという『Left 4 Dead』とか、ポスターが貼ってあるんですけど、そのポスターのなかの1枚として貼られて、要はオマージュが捧げられている作品で。1946年のアメリカ映画、俳優ロバート・モンゴメリーさんがはじめて監督に挑戦した作品で、これが映画史上初の全編POV長編映画と言われている『湖中の女』……フィリップ・マーロウ物ですよ。レイモンド・チャンドラーの……という作品について、(監督インタビューなどで)いろいろと語っていたりとか。
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これ(『湖中の女』)、作品としてはもちろんちょっと微妙なところもあるんですよね。あるんだけど、試みとして……1946年ですよ? に、全編POVで映画を撮るっていう、非常に勇気ある、先見的な試みをした『湖中の女』という作品について、いろいろと語っていたりとか。これまたですね、ジャンクハンター吉田さんのインタビューに出てきた話題で、オーソン・ウェルズが『市民ケーン』を撮る前に、『地獄の黙示録』の原作でおなじみ『闇の奥』……先週、『キングコング: 髑髏島の巨神』でも『闇の奥』の話をしましたけど、そのコンラッドの『闇の奥』を、実はオーソン・ウェルズは、全編一人称視点で撮ろうとしていた、なんて驚きの秘話であるとかですね。
あと、また別のインタビューでは、POVアクション映像としては、みなさん覚えてらっしゃいますかね? キャスリン・ビグローの『ストレンジ・デイズ』。レイフ・ファインズが主演の『ストレンジ・デイズ』のオープニングが、イリヤ・ナイシュラーさん的にはひとつの理想であり、これをやられちゃっているからこそ、越えなければならない壁としてある、みたいなことを言っていたりする。特に35ミリフィルム撮影時代にこれをやったって考えると、たしかにこれ、結構驚異的な映像だったりするんですけど。まあ後ほど言いますけど、やっぱりデジタルカメラの進歩っていうのが、今回の『ハードコア』みたいな試みには絶対に不可欠なものだったのは間違いないんですけど。
まあとにかく、そんなこんなの歴史的研究が、このイリヤ・ナイシュラーさん、非常に行き届いていると思います。ちなみにこれ、イリヤさんは言及してませんけど、おなじロシアの映画監督で、ソクーロフの『エルミタージュ幻想』。あれもまあ、デジタルで撮った、わりと全編POVって言っていいタイプの映画じゃないかなっていう気もしますが。ただ、アクションではないですからね。全編POVアクション、ということで、今回の『ハードコア』。そういう研究を重ねただけあって、要は、全編主観ショットだけで長編映画を語り切るための配慮っていうのが、僕は実は、幾重にも重ねられている作品だなという風に思います。
まずやっぱりね、その主観ショットの主である、主人公の設定っていう部分だと思いますね。主観ショットだけ、ということは当然、体感上の、「動き上の一体感」、ライド感はこれ、観客は得やすい。これは間違いないんですけど。だからこそ、言うまでもなくゲームとかには向いているわけですよね。動き上の一体感は得られやすいわけですけど、ただそれと同時に、自分……つまり主人公の姿だけは、見えないっていうことですよね。まあ、さっき言った『湖中の女』のように、わざわざ主人公が鏡にいちいち向かってね、なんかしゃべるとか。鏡に向かったりする瞬間がない限りは、主人公の姿だけは見えないわけじゃないですか。どんなツラをしているかもわからないやつなわけですよ。ということで、実は「キャラクターの内面に対する感情移入」は、逆にしづらい表現とも言えると思うんですよね。はい。いま、どんなツラをしているかもわからないやつなわけですからね。
で、イリヤ・ナイシュラーさんもそこは重々承知している。過去作を見て、たとえば『湖中の女』とかを見て、いいところもあるし、でもあんまりよくないところもあるけど、「いろいろ勉強した。過去作でやっちゃいけないことっていうのも学んだ」って言ってて。まさにそういう、内面に対する感情移入はしづらい表現だから、そういう設定のゲームが多いのも同じ理屈だと思うんだけど、こういうことですね……要は、半ば記憶喪失同然の主人公が、内面を、つまりアイデンティティーを取り戻してゆく「まで」の、そういう話としたということですね。この『ハードコア』が多大な影響を受けている『ロボコップ』とかもそうですけど、ほぼほぼ主人公が記憶喪失に近いぐらい内面を喪失した状態で、それをだんだん「取り戻していく」話ということにすると。で、実際にゲームも、こういう設定多いですよね。
で、これまたFPSゲームのプレイヤーキャラクターには多いですけども、独立した内面を感じさせる……つまり観客の感情にむしろ距離感を感じさせてしまうような、発話・セリフはあんまり言わせないようにさせている。セリフは無しということにすると。で、感情の発露をさせるところは、最小限のジェスチャー、それも、ややコミカルに茶化した調子で示されるのみ、ということですね。というのは、たとえば「これ、どうなの?」って言われて、画面が縦に動いて「頷く」っていう表現って、もうそれ自体がちょっと、ギャグじゃないですか。なので、あんまりこれは多用できないということですね。
ということで、その分、物語上必要な説明などは、他のキャラクターが、主人公に顔を向けて、やたらと親切にしゃべりかけてくる、ということになって。これ、ゲームならともかく、劇映画だとやっぱりそれは、非常に不自然に見えかねない、ということがありますよね。不自然だし、単調にね、やたらと説明ばっかりしてくる、ということになりかねないんだけど。実際に『湖中の女』はそれに陥っているんですよ。やたらと主人公の方を見て、要はカメラ目線でずーっと話しかける、っていう画だけになっちゃうっていうね。
なんだけど、この『ハードコア』の場合、そこにもちょっと一工夫が込められていて。ゲームで言えばまさに、やれ「あそこへ行け」やれ「あそこに行ってあのアイテムを取ってこい」などなど、いちいち指示を出してくれる役割のキャラクター。ゲームだといますよね? それを今回の映画だと、『第9地区』のシャールト・コプリー演じるジミーっていうこのキャラクタ—……さっき(リスナーメールで)「ジミーが複数形になっている」って言いましたけど……これがね、完全にピーター・セラーズ、それも特にやっぱり、『博士の異常な愛情』のピーター・セラーズばり、と言ってもいいと思いますけど。まあ、こっちの『ハードコア』は大本の人格はひとつなんだけど……要は1人で何役も、それも全く異なるキャラクターたちを、入れ代わり立ち代わり、1人の俳優が演じるということをやっているわけですね。
要はさっき言った、内面を欠いた主人公が内面を取り戻してくまでの……つまり、内面を取り戻したら、もうそこで話は終わり、っていうまでの話であるこの主人公に対して、内面が、アイデンティティーが分裂して、過剰に増殖したような対照的なキャラクターをここに配することで、普通なら単に説明過多だったり単調という風に見えかねない……さっき言った、やたらと主人公にいろいろ説明してくれる、っていうような場面に、別種の面白みとか起伏とか、あるいは物語的な深みというか、内面が分裂した人っていうのを置くことで、それを加味しているということですね。実際、後半でそのジミーがですね、何種類ものジミー、いろんなキャラクターのジミーが同時に登場して、コール・ポーターの「I’ve Got You Under My Skin」っていう曲に乗せて歌って踊るという場面があって。これ、もはやこの場面とかは、「POV映画としての面白さ」とかはどこかに行ってしまう勢いで(笑)、クラクラする異様さにあふれた、本当に名シーンだと思います。
またこのシャールト・コプリーが楽しそうな……これ、役者冥利に尽きると思うんですよね。本当に現代の、21世紀のピーター・セラーズ化していたと思いますけどね。ということで彼の、シャールト・コプリーの怪演で、かなりそこで「持たせている」作品だというのもたしかだろうとは思います。ただまあ、やっぱりね、もちろんいちばん大事なのは主観ショット。POVアクションの見せ方ですね。で、やっぱりそのバリエーション、アイデアの豊富さ、工夫の多様さに、僕はすっごい感動させられてしまうというか。「よくぞここまでいろいろと考えたな!」と。当然のごとく大活躍しているのはGoProという、これ、聞いたことある方、いらっしゃいますかね? エクストリームスポーツとかを撮る用に開発された、ちっちゃいアクションカメラ。要するに、ヘッドセットとかにくっつけて、自在に動いているところでも、運動しながらでも撮れるという、アクションカメラの代表格GoProというのがございます。
ちなみにこれを使った主観ショットの……今回も、その主観で、いわゆるパルクールアクション、建物をポンポンポンッて登っていったりするパルクールアクションの場面がありましたけどね。そういう、GoProを使った主観パルクールアクションといえば、坂本浩一監督の『仮面ライダー×仮面ライダー ウィザード&フォーゼ MOVIE大戦アルティメイタム』、2013年1月5日にこの番組で扱いましたけど、あれでいち早くやっていましたよね。だから坂本浩一監督、今回『ハードコア』を見て、悔しがっているんじゃないかな? 「そうか! 全編これって作品もできるのか!」みたいに思ったかもしれませんけどね。
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まあとにかく、GoProという最新アクションデジタルカメラ、これを使って。それとさらに、今回の映画のために開発したスタビライザー。要するに、カメラを安定させる装置付きのヘルメットを装着して撮影することで、むちゃくちゃ激しいエクストリームなアクションをしつつ、決して見づらくない。なにが起こっているか、わけがわからなくはならない程度に安定している。かつ、これだけ画面が動いているにもかかわらず、僕は画面酔いしづらい配慮が、絶妙なバランスに落ち着いているなと思いましたけどね。だいぶ進化していると思いますけどね。そこはね。ということだと思います。
もちろん、様々なFPSゲームへのオマージュもあります。明白なオマージュ。『Left 4 Dead』であるとか『コール オブ デューティ』であるとか『バトルフィールド4』だとか。さっきの主観パルクールっていう意味では『ミラーズエッジ』だなとかね、いろんなものがあったりするんですけど。驚くのはこの劇中の様々な主観ショットによる驚異的なアクション、ほとんどCGとかに頼らず、ワイヤーと生身のスタントで、「本当にやっている」ということですね。「えっ、そうなんだ。こうやって撮っているんだ!」って。そうやって体を張って作っているからかですね、製作費も驚異的です。びっくりするぐらい安い。インターネット・ムービー・データベース(IMDb)によれば推定200万ドル……「2億円? ええっ!?」っていう。ウィキペディアだと「200万〜300万ドル」って書いてあるんで、どっちにしろ3億円。「3億円? で、できちゃうの、これ!?」っていうね。すごいですね。
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で、それが全く信じられないほど、さっき言ったパルクールアクションから銃撃戦、カーチェイス……それもね、爆発する車から、まあワイヤーは使っているけど、爆発する車からバイクにバッて飛び移るのとかを本当にライブアクションでやっていたりとか。あるいは、果ては戦車……それも戦車の外側から内部までガーン!って入り込んで、これ、まさに主観ショットアクション映画ならではの、そういう見せ方であるとかですね。最終的には『AKIRA』ばりの超能力戦。最後、ラスボスのところに駆け上っていくあのアイデアとかもうね、(監督はインタビューで)「『マリオ』だ」って言ってましたけどね(笑)。「なるほどな」って思いましたけど。
ということで、しかもいろいろなアイデアが凝らされているのは、アクションの基本的な見せ方だけじゃなくて、画面の隅々まで、情報量が本当に多い。さっき言った、部屋に貼られているポスター1個1個にもオマージュが入っているというのもそうですし。いちいち小ネタに触れているとキリがないぐらいなんですが、たとえば途中、主観ショットで、目の前の男が、顔がこっちに向いているわけですけど、いきなり、まあ狙撃されたんでしょうね、いきなり銃でバーン!って、頭を吹っ飛ばされるっていうところが、結構ガーン!ってびっくりする。そうすると、よく見るとこう、普通の道なんですけど、後ろにいた通行人の女性。とばっちりで手が切れちゃっているわけです。飼い犬の首輪がついたまま、腕が下に落っこちて呆然としてるっていうのがチラッと見えるわけですね。その後、主人公が地面にバーンって倒れて。するとその主人の目線の先に……腕を引っ張ったかわいい犬がちょこちょこちょこっと去っていくとかですね(笑)。いちいち小ネタが悪趣味なんだけど、まあ楽しい!ということでね。こんなのが満載ということですね。
事程左様にね、基本超バイオレントなアクション「コメディー」です。コメディー、と言って差し支えないと思います。なんか、ロシアならではのエクストリームさみたいなのがね(新鮮で面白い)……たとえば警察描写。「うん、警察はこれぐらい極悪ですよ。普通に」みたいな(笑)あの感じとか、「怖っ!」っていう感じなんですけどね。で、まあコメディーなんですけど、ただ同時に、最終的にやっぱり、さっきから挙げている『湖中の女』『ストレンジ・デイズ』もそうですけど、たぶん(POV感覚と)相性がいいんでしょうね、ノワール風味なんですよね。で、それを大きく加えているのはヘイリー・ベネット。ねえ。この間、2017年2月4日『マグニフィセント・セブン』でも触れましたけど、やっぱエロいですね!(笑) ヘイリー・ベネットのエロさはいま、随一ですね。
そういえばね、『マグニフィセント・セブン』といえば、劇中、『荒野の七人』テーマが途中でギャグ的に流れたりするんですけど、そんな感じで、選曲センスもさすがです。まずね、オープニング。ストラングラーズの『Let Me Down Easy』っていうこの曲。この曲に乗せてのオープニング。ここはPOVじゃなくて、様々な暴力っていうのを、どアップ、そしてスローモーションで見せるっていうね。めちゃめちゃ悪趣味なんだけど楽しい〜!っていうね。特に僕、呆れたのは、ナイフが喉にゆ〜っくり刺さっていくっていうところで、パッとカットが変わったら、今度はこっち(喉の反対側)からニューッて出ていくところをゆっくり見せるっていう。悪趣味!(笑)っていうあたりであるとかね。先ほども、最初の方で流しましたね。クライマックスシーン。クイーンの『Don’t Stop Me Now』が流れて、そこで文字通り、アドレナリン注入! で、ドーン!ってことになるクライマックスシーン。もう非常にテンションが上がる場面であるとかね、いろいろとアイデアが凝らされています。
もちろん、否定的な方がいるのも僕、それは当然だと思います。まあ、後半なんか特に、刺激が強すぎ、多すぎで、若干麻痺してくる感じもたしかにありますよね。すごいことをドッカンドッカンやられるんだけど、「なんかもう、僕疲れちゃった……」みたいな(笑)。実際に僕、見終わった直後、強烈な睡魔が襲ってきて。たぶん情報が詰め込まれすぎて、バターン!ってなりましたしね。これで、決してだから「今後の映画はPOVになっていく、最高!」とは絶対にならないと思います。逆に、これだけ工夫を凝らしていろいろ気を遣ってようやく、長編映画としてギリ成立させられるかどうか、っていうことで。ある意味、この一本が特別なんだってことを証明したとも言えると思うんですが。
ただ、少なくともですね、先ほどのメールもそうでしたけど、「話としてこういう無理がある」とか、「こういうところがつまらなく感じた」とかってあるかもしれませんが、たとえばじゃあ、「劇映画における感情移入とは何か?」「どうしたら感情移入っていうのは起こるのか?」であるとか、主観ショットの見せ方……たとえば(リスナーメールにもあったように)「1カットじゃないとちょっとおかしくないか?」とかですね。そういう風に、映画っていうものの構造に対して、あるいは「映像で物語を語る」っていうことに対して、様々な思考を促される、超興味深い実験であることは、これは否定できないと思うんですね。これを見ると、いろいろと面白いことを考え出す。
で、それに加えて、さっきも言ったようにもう「これでもか!」とばかりの工夫とアイデアとマンパワー……ちょっと自主制作映画的なキュートさと応援したさがあるっていう感じですよね……僕はとにかくその、人力でこんだけ持っていったというところに、本当に感動しました。とにかくね、否定するにしろ何にしろ、一見の価値はすごくある作品だと思います。ぜひぜひ劇場のスクリーンでウォッチしてください。
(ガチャ回しパート中略 〜 来週の課題映画は『ムーンライト』に決定!)
以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。
◆過去の宇多丸映画評書き起こしはこちらから!